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​研究会報告

第1回 研究会のまとめ(文責:事務局 桑木康宏)

1.1 開催概要

講  師:共愛学園前橋国際大学 学長 大森昭生 先生

日  程:2021年3月12日金曜日 13:00-14:30

事前課題:「新たなる大学像を求めて: 共愛学園前橋国際大学はなぜ注目されるのか」鶴蒔靖夫著(2019)

1.2 第1回目のまとめ作成方針

 共愛学園前橋国際大学は、様々な取り組みを行っており、多くの補助金にも採択されてきた。特徴的な取り組みも多く、個々の取り組みに深入りすると何が骨子であるのかが見えにくくなってしまう。本まとめにおいては、研究会の主旨に則り、共愛学園前橋国際大学の持つ特徴的な組織文化と、それを生み出していると考えられる組織風土に焦点を当て、他大学でも役に立つ知恵として、出来るだけ端的に抽出することに取り組む。

 基本的な読者としては、研究会の参加者とする。加えて、研修会の参加者が本資料を使いながら、他の人にポイントを紹介する際に使用することを想定し、最低限の周辺情報も合わせて掲載する。

1.3 特徴的な組織文化とそれを生み出した風土:共愛学園前橋国際大学

  1.3.1 最も特徴的な組織文化

 共愛学園前橋国際大学の中心には、自分たちの果たすべき役割と、進むべき方向が据えられている。学長や、学部長、または理事長や、法人事務局長など、特定の役職者が”やる”と言ったから実行するのではなく、中心に据えられた『果たすべき役割と、進むべき方向』に照らして、何を行うべきかを一人一人がフラットに知恵を出し合って考え、判断し、行動を起こす組織文化が形成されている。これが、共愛学園前橋国際大学の最も特徴的な組織文化である。

 一人のカリスマ的存在が、全体をマネジメントするのではなく、一人一人が考え、判断し、行動を起こせるようにするための徹底した組織づくりを行っている。その結果として、組織に属する一人一人が、知恵を出し、行動する文化が生まれ、普通でない結果を生んでいることがうかがい知れた。キーワードを使って組織形態を表現すると、ティール組織や、学習する組織ということになるかと思うが、これを大学で実践した場合に、どのような取り組みとなるのか、一つのモデル事例であるといえる。

 参加者による振り返りシートにおいても、この特徴的な組織文化を読み解く上で欠かせない「ストーリーテラー」や、「スタッフ会議」に関する記述が多かった。以下、その全体像を構造的に整理を行う。

 1.3.2 特徴的な組織文化を生み出した組織風土を構造的に捉える

 共愛学園前橋国際大学は、決して特別に恵まれた大学ではない。人口流出している地方(群馬県)に位置する小規模大学(収容定員1200名:2021年度現在)である。また、共愛学園前橋国際大学の方に対しては失礼な表現になるかもしれないが、組織にいる人が皆、目をキラキラ輝かせたベンチャー企業の人達のようでもないそうで、普通の大学教職員とのことである。学長である大森先生が学園のオーナー系の方で、特別な権限を持っているということでもない。

 置かれた環境も、そこに所属する人も、多くの地方小規模大学と変わらない境遇と言える。それにもかかわらず、どうして、特徴的な組織文化を育み、結果に繋げることができているのか。

 大森先生のお話には、この組織文化を自然と生み出し、定着させる上でポイントになっていそうな事柄(=組織風土づくりに関係がありそうな事柄)が、たくさん含まれていた。構造的に捉えると次の通りである(事務局:桑木作成)。

 以下、組織風土の変えられる部分と変えられない部分に関する考え方を整理したうえで、ポイントを①~③まで順に確認する。

■ 図1:組織風土づくりに関係がありそうな事柄の構造的理解

 

 

 1.3.3 変えられる部分と変えられない部分の整理

 組織風土には、変えられるものと変えられないものがある。『大学を取り巻く環境』や『組織にいる人』などは変えられないものとして位置づけた。もちろん、キャンパス移転をしたり、人を入れ替えたりすれば変えられるが、認可が必要であったり、法的な問題の発生する可能性があったりと、ハードルが非常に高いことから変えられないものとした。

 一方で、組織の目標・制度については変えられるものとして位置づけ、姿勢・考え方については、変えられるものと変えられないものとの中間として位置付けた。オーナー系大学の理事長や常務、法人事務局長の姿勢や考え方など、大きな権限を持つ方に課題を感じている大学職員の方にとっては、目標・制度も変えられないものに属する。しかし、定員割れし、中退率が大きくなり、危機的な状況に陥った大学において、根本的な何かが変わり募集改善に向けて動き始めたという事例も多々聞くところである。

 立場毎に、変えられるか、変えられないか意見の分かれる所であるかと思うが、立場を離れ、抽象的に大学組織を把握するという観点から、ここでは、「目標・制度」は責任者の意思決定次第で変えられることから「変えられる」ものとして位置づけた。

 また、意思決定の背景にある「姿勢・考え方」については、「変えられないものと、変えられるものの中間領域」に位置付けた。他者が働きかけても変えられない部分ではあるが、責任者自身の気づきにより変化することもあることからである。

 

 1.3.4 ポイント①:境遇は多くの地方私立大学とあまり変わらない

 共愛学園前橋国際大学の境遇が、置かれた環境も、そこに所属する人も、多くの地方小規模大学と変わらないことは重要なポイントと考えられる。多くの地方小規模大学と変わらないのに、結果に繋げているということは、多くの地方小規模大学が組織づくりを進めるうえでの重要な示唆を含むと考えられるからである。そのため、これをポイント①として、組織風土の変えられない部分(図1一番下)に位置付けた。

 

 1.3.5 ポイント②-1:基本的な姿勢や考え方

共愛学園前橋国際大学の境遇は、多くの地方私立大学と同じであるのに、どうして結果に繋がるのか。その重要なポイントの一つが、姿勢・考え方の部分にある。

(1)置かれた環境に徹底的に向き合う:誰のために・何のために

 図2は、大森先生が最後に紹介してくださった図である。大学を取り巻く環境に徹底的に向き合い、自分たちは誰のための存在であるのか、何のための存在であるのかを追求した結果として、覚悟したことが記されている。そして、ひとたび覚悟を持つと、これまでデメリットして見えていた地方に位置する大学であるということが、地域と密接につながった教育に取り組みやすく、マーケットニーズが明確であるというメリットに転換され、小規模大学であるというデメリットが、教育の質向上に取り組みやすく、組織全体としてガバナンス改革に取り組みやすいというメリットに転換されたというお話をご紹介頂いた。

 この覚悟が生まれるレベルまで、大学を取り巻く環境に徹底的に向き合っていることは、共愛学園前橋国際大学が結果を出している根本に位置するファクターであると予想される。

■ 図2:大学改革の背景にあるデメリットをメリットに変える覚悟

(2)大学に関わる全ての人の成長の場:「大学」という「コミュニティ」

 姿勢・考えの部分には、もう一つ外せないものがある。それが、図3及び、図4(大森先生資料より抜粋)で表現されている「大学というコミュニティ」という考え方である。

 大森先生から、オープンキャンパスを学生が中心になって行ったり、カフェを運営したりという話に合わせて、サークル棟を建てるのを学生に任せたという話が紹介された。予算6000万円を学生に託し、学生が主体となって様々なサークルの声を集め、どのような建物にすると良いか検討し、設計を固め、建ててもらったというプロジェクトである。通常であれば設計から竣工まで半年程度で済むところを、1年半かかったそうだ。

 教員が授業を通じて指導するだけでなく、学生同士の関わり、職員と学生の関わり、学生と地域の人との関わり、様々な関わりの中で学生が育っていくという基本コンセプトが伝わってくる取り組みである。

 学生の成長だけではなく、職員の成長も含めて、喜ばしいこととして語られる大森先生のお話から、大学を、学生だけを育てるための場所ではなく、教員、職員、地域の人、学生が集うコミュニティとして捉え、このコミュニティに関わる全ての人の成長の場とするためには、どのように活用すればいいのかと考えていることが伝わってきた。これは、一部の人、一部の部門に限れば他大学でも例のあるコンセプトだが、大学全体の基本姿勢・考え方に位置付けているのは、共愛学園前橋国際大学の大きな特徴の一つであるといえる。

■ 図3:みんなが支える大学コミュニティ化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MS=Management Staff  TS=Teaching Staff

■ 図4:「大学」という「コミュニティ」


 

 1.3.6 ポイント②-2:目標・制度

 共愛学園前橋国際大学の境遇は、多くの地方私立大学と同じであるのに、どうして結果に繋がるのか。その重要なポイントは、目標・制度の部分にもある。

(1)教職一体ガバナンス:教職員がフラットに参画する大学運営

 象徴的に分かりやすい制度としてはスタッフ会議がある。スタッフ会議は、教員、職員ともにその立場と関係なく、大学の重要事項に関してフラットに意見交換する場である。大学の方向性を左右するような重要事項は、全教職員が参画するスタッフ会議で話し合う。理事長や、学長も班に分かれて一般教職員と同じ机を囲んで意見交換し、その意見を集約していく。ポイントは、大森先生資料より図5及び、図6を転載する。

 教職員がフラットに参画する大学運営という考え方は、スタッフ会議だけでなく、教職員が協働して運営する各種センター会議にも根付いている。席の座り方一つをとっても、教員と職員が分かれて座るということはなく、一つの輪になって相談を行うそうだ。

■ 図5:教職一体ガバナンス

 

 

 

■ 図6:スタッフ会議とフラットな組織の例

(2)共有されている果たすべき役割:学生のために・地域のために

 共愛学園前橋国際大学には、教職一体ガバナンスと対をなす特徴がある。それが、『誰のために→学生のために』『何のために→地域のために』を覚悟の水準まで徹底的に追求し、共有していることである。(大森先生が、このお話を「少しウェットな内容ですが」と前置きをしてご紹介くださったことで、自己開示であることが分かり、本心からの想いであることをうかがい知れた。)

 このぐらい分かりやすい言葉で自大学の役割が共有されると、これがそのまま教職員一人一人の行動指針となる。この役割と照らし合わせて問題がなければ、多くの関係者に賛同してもらえることが期待されるため、新しい取り組みでも自信をもって提案できるようになる。

 これを構造的に極端に解釈すると、教職員は理事長や学長が言うから行動するのではなく、理事長や学長よりも上位に位置付けられた『果たすべき役割』に照らして適切かどうかによって、どう行動すべきかを考えられる構造と言える。裏を返すと、理事長や学長が指示したとしても、この行動指針に照らして適切でなければ、再考を促すこともできる。それぐらい強力な自大学の役割を組織全体で共有できていることが、一人一人が自ら考え、行動を起こし始めるための前提として機能し、共愛学園前橋国際大学の強みを生み出している。

 1.3.7 ポイント②-3:『基本的な考え方や姿勢』と『目標・制度』が整合している事

 共愛学園前橋国際大学の境遇は、多くの地方私立大学と同じであるのに、どうして結果に繋がるのか。その重要なポイントの中でも最大のものとして「基本的な姿勢や考え方」と「目標・制度」が整合していることを強調しておきたい。ここまで紹介した内容は一つ一つがそれぞれに特徴的であるが、最も注目したいのはこの点である。

『学生のために・地域のために』という目標は、大学の中心に据えられ、行動指針の役割を果たしているが、これは、『この指針に従って行動するように』という組織の命令として共有されているものではない。『この目標を何とか達成していきたいと考えているので是非ご協力願いたい。もし自分が目標からズレたことを言っていたら是非教えて欲しい。』という、大森先生自身の切実な思いとして、他の教職員とフラットな立ち位置から発信されていることが特徴的である。

 そのうえで、スタッフ会議や各種センター会議などにより、一人一人が、意見を述べ、創造性を発揮することを制度的に保障している。

 スタッフ会議や各種センター会議はそれだけでも他大学では聞かない特徴的な取り組みであるが、この会議は、大学を学生のための成長の場としてだけではなく、教職員をはじめ、大学に関わる全ての人の成長の場とするための仕掛けの一つであることに注目したい。

 基本的な姿勢や考え方を追求する中から生まれてきた次の2つが整合し、両輪として揃っていることが、共愛学園前橋国際大学において、一人一人が自ら考え、動き始める組織風土の基礎を成していると考えられる。

 ① どう動けばよいかを一人一人が考えられる行動指針として示していること

 ② 考えたことを意見として述べ、創造性を発揮するための制度的保証

 1.3.8 ポイント③:仕組みを機能させるための原動力

 ここまで、共愛学園前橋国際大学の整合性の取れた一連の仕組みを確認してきた。しかし、仕組みを作っても、利用されないこともよくある。特に、教職員みんなが、目をキラキラ輝かせるベンチャー企業のような積極的な人の集まりでなければ、尚更である。

 それでは、なぜこれらの仕組みがうまく作動するのだろうか。それは、整備された仕組みが作動するよう、原動力を与えられているからである。その原動力となっているのが、大森先生の果たされている2つの役割である。

(1)ストーリーテラーという役割

 大森先生は自身のことをストーリーテラーと位置付けられており、学内で行われるさまざまな取り組みを嬉しそうに一つの物語として語られる。そして、大森先生に取り上げてもらった教職員は誇らしく思い、その話を聞いた他の教職員は、そのような行動を取れば皆に喜ばれるんだと気付く。これが、整備した仕組みを動かすための好循環として機能している。

 もう少し構造的にストーリーテラーの役割を捉えると、学内で行われている活動の中から『基本的姿勢や考え方』にかなう活動をピックアップし、それを大学全体のストーリーの中に位置付け・意味づけしながら、全体として一つのストーリーを紡ぐことと言える。

 大森先生がストーリーテラーとして学内で生まれた物語を外部に発信することで、大学のブランディングが進むと共に、内部の人へに対しては、目標に対して一人一人の動きが貢献している事や、目標に対して着実に一歩一歩進み、近づいていることを伝え、組織内に活力を生み出している。また同時に、『基本的姿勢や考え方』にかなう活動とは、具体的にどのような活動のことであるかを示すことにもつながり、一人一人が自信をもって動き始める原動力にもなっている。

 

(2)心理的安全性を確保する役割:学長(責任者)自身の間違いを受け入れる姿勢

 この最後の話題は、大森先生から伺ったお話ではなく、事前の打ち合わせを通じ、また当日インタビューを通じて、事務局メンバーが感じ取ったポイントである。

 大森先生は、基本的姿勢や考え方の話はブレることなく、丁寧に話してくださる一方で、具体的なエピソードの話題になると、『自分が良かれと思って、また、正しいと信じて行動したことが、実は先生方や職員さんと話した結果間違えていた』というお話を、何度もされていた。

 学長自身が自らの考えの間違いを認めること。これは、組織風土に大きな影響を与えていることの一つであると感じる。というのも、大森先生とお話をしていると、間違いに対して寛容であるというより、間違えていると気付き、間違いを正せば、間違いを抱えていた状態よりも成長したと、むしろポジティブに受け入れていただけそうなぐらいの安心感があったからだ。このような失敗に対するセーフティーネット(心理的安全性)があれば、チャレンジに対するハードルが下がり、教職員一人一人にとって、チャレンジしやすい組織風土が醸成される。

 そして、学生のため・地域のためになることを思いつき、発言すれば、大森先生から、「もっとやっていいよ」「どんどんやってみよう」と背中を押される。そして一歩を踏み出す。そんな風に動き始める方が、少しずつ増えていっているのであろうことが予想された。

 

 以上ここまで見てきたように全体を捉えてみると、共愛学園前橋国際大学は外から見ると、成功ばかりの組織に見えるが、実はそうではないという大森先生のお話も理解できる。一人一人がそれぞれの立場で、学長が知らない所でも動き、その中でうまくいったものが、ストーリーに組み込まれている。一人一人がそれぞれに行動しているから、生まれている取組みが多く、結果としてうまくいった事例がたくさん生み出されているというのが実態であるようだ。

 1.4 まとめ

 共愛学園前橋国際大学の境遇は、多くの地方私立大学と同じであるのに、どうして結果に繋がるのか。その重要なポイントについて、構造的に把握することを試みた。ポイントは次の3つである。

 

 共愛学園前橋国際大学が結果に繋がるのは、成功事例しかないからではなく、一人一人がそれぞれの立場で考え、行動を起こせる目標・制度を整備し、更に、それらが機能するよう、心理的安全性を確保しながら背中を押し、一人一人の活躍を取り上げながらストーリーを紡ぐ、という一体的な取り組みの相互作用にあることを確認してきた。

 整理を通じて感じるのは、どれか一部分を切り出してマネをしてもうまくいかないということである。取り組みを断片的に切り出して、部分的に実行しても、それを保証するための周辺事項が整備されていなければ、機能することはない。これまで成功事例が取り上げられ、それをマネしてもうまくいかなかった原因に少し迫れた気がする。

 以上、自身の存在意義に正面から向き合い、全体を整合的に運営することが求められているということを第1回のまとめとしたい。

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